新幹線通勤していた経理担当のTさん
こんにちは、wandervogelのくりもときょうこです。
昨日はシリアスな内容だったので、今日はやわらかいネタでいきましょう。
わたしが最初に配属された部署は、ティーンエイジャーの男の子向けの雑誌編集部でした。
そこに、経理担当のTさんという男性がいました。
もうあと少しで定年というお歳だったかと記憶しています。
Tさんは、明らかにカツラとわかる髪型をしていて、色付きの眼鏡をかけ、うっすら化粧をしていました。
服装はスーツです。
机にはいつも大きな湯呑みが鎮座し、暑くなると優雅に扇子を取り出す姿が今も記憶に残っています。
最初のインパクトは相当なものでした。
外見は独特でしたが、他人を不安にさせる人ではありませんでした。
独特の優しい話し方で、おしゃべり好きで、わたしもよくTさんと他愛もないことをしゃべっていました。
Tさんはいろいろと逸話の多い人でした。
当時住んでいたのは、福島駅前のマンション。
なんと、毎日新幹線通勤していたのです。
「東京は空が狭い」と高村光太郎の『智恵子抄』みたいなことを言って、あるとき急に引っ越したのだそうです。
当然、交通費全額は出ません。規定外の分は自腹です。
「6か月定期券を買いたいけれど、高額なのでJRが作ってくれない」とボヤいていました。
男性の多い部署だったこともあってか、飲み会で盛り上がってくると決まった男性がスッポンポンになるのが恒例でした。(今は完全アウトですね)
あれはTさんの定年退職の送別会だったか、主役のTさんが脱がされてしまいました。
アクシデントにもかかわらず、赤だったか紫だったか、Tさんの下着はどう見ても見せパン……。
脱がされることを見越しての準備に、さすがTさんと恐れ入ったものです。
Tさんは元は営業の部署にいて、かつては地方の書店を営業で回っていたそうです。
あるとき、警察から社に電話がありました。
「おたくの本が川に大量に投棄されているんですが」
犯人はTさんでした。
辞書だったか、とにかく厚くて重い本の営業に回っていたTさんは嫌気がさして、その本を川にブン投げたそうなのです。
今となっては笑い話ですが、Tさんは一体どうやって切り抜けたんでしょうか。
Tさんは局の経理担当で、原稿料や経費などの伝票を整理する仕事をしていました。
いい加減な伝票やあやしい伝票はたくさんあったのではないかと思いますが、それでもTさんは“よしな”にやってくださっていたのだと、わたしは後ほど知ることになります。(Tさんも適当に処理していたのかもしれないですが)
定年退職したあとは、函館と京都に家を持って、悠々自適で暮らすのだと言っていました。それから何年か後、お亡くなりになったと風の便りに聞きました。
じつに楽しい人でしたが、Tさん自身は楽しい一生だったのだろうか。
Tさんの人生のほんの一部しか知らないわたしは、ついそんなことを思ってしまうのです。
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