製本について

こんにちは、wandervogelのくりもときょうこです。


昨日ご紹介した本で、製本について少し触れました。

その流れで、今日は製本のことを書きたいと思います。


といっても、専門家である製本会社の方ほど詳しくはありません。

書籍の編集をやっていたのも5年ほど。

ざっくりとしたことのみお伝えします。

(万一、間違いがあったらお知らせいただけると幸いです)



日本で現在流通している書籍の大部分は、大まかに分けて3種類の方法で綴じられています。


 ・上製

 ・仮製(並製)

 ・仮フランス装


特殊なものとしてリング製本などもありますが、今回は触れません。


その前に、書籍を構成するパーツについてお話しましょう。


写真:上から、「帯」「カバー(ジャケット)」「表紙」です。帯は宣伝文句を載せるためのもので、最近はかならずと言っていいほど付いていますね。カバーと帯の大きさがほとんど変わらない本もあります

写真:表紙をめくったところは「見返し」と言います。さらにめくると「扉(化粧扉)」。このふたつは装丁の遊びどころといいますか、個性あるテクスチャーや色の用紙でその本の雰囲気を伝える役目があります。この「見返し」「扉」、さらに表紙やカバー、「奥付」「口絵」「目次」といった本文以外のパーツを「付き物」と総称します



まずは仮製本からご紹介しましょう。

いわゆるソフトカバーです。

いちばん多く目にするのが、この仮製本ではないでしょうか。

表紙に芯が入らず、本文と表紙を一緒にくるんで裁断するため、本文と表紙(さらにカバーも)が同じ大きさになります。

コストを抑えられるので、定価もその分下げられます。

軽やかさ、カジュアルさがあり、コミックス、軽めの読み物、実用書などによく使われています。


ちなみに、本文の上の端を「天」、下の端を「地」、表紙側を「ノド」、開く側を「小口」と呼びます。



そして上製本。

いわゆるハードカバーですね。

表紙の中に厚紙等の芯を仕込んで厚く、丈夫にしてあります。

さらに、表紙は綴じた本体より数ミリ大きく作ってあります。(この少し飛び出た部分を「チリ」と呼びます)


本文は糸で綴じてさらに丈夫にする場合もあります。

特に絵本は、子どもがラフに扱っても簡単にバラけないように、糸で綴じることが多いですね。

(仮製本は糸を使わず、糊だけで綴じることがほとんどです)


ちなみに、表紙のいわゆる背表紙の形状を角ばらせるか(角背)、丸みをつけるか(丸背)、という選択も可能です。

角背は評論や難解な小説などの硬めの本で好まれます。

(ちなみに、角背でページ数があると開きにくくなるからあまりよろしくないとかつては言われていたようですが、今は分厚い本でも角背が採用されているケースも。製本技術の進歩でしょうか)


話が飛びましたが、上製本は堅牢で長期保存に向いています。

雰囲気も仮製本に比べて重厚ですね。

その分コストがかかります。


また、上製本はパーツが増えます。

本文と表紙の境目に、「花布(はなぎれ)」という布を仕込み、さらにしおりとしての機能を担う「スピン」もつけることが多いです。

花布やスピンはカタログの中から選びますが、ものすごい種類があるわけではありません。

それでも、本のいいアクセントになりますから、カタログを見るのは楽しいひとときでした。

(今は、装丁の雰囲気に合わせてデザイナーが指定することが多いでしょうか)



昨日の投稿で少し触れた仮フランス装は、どちらかというと仮製本に近いカジュアルな製本です。

表紙は本文よりだいぶ大きく、天地左右の余白を内側に折り込んで糊付けするという処理をします。

また、本文の天をアンカットにすることで、独特のラフな雰囲気が生まれます。

あまり使わない製本方法のせいか、コストは上製本と同じかそれ以上かかることも。

(安いという説もありますが、わたしの職場ではコストがかかると言われていました。できる製本所が限られていたのかもしれません)

フランス装は、その名の通りかつてフランスで一般的だった製本方法だそうです。

入手した人が、自分好みに仕立て直すことを前提とした簡易な製本なのです。

本文を傷つけずに解体でき、自分の好きな表紙をつけたり、本文をバラして別の本と合体させたり、なんてこともできたとか。

“自分だけの一冊”が作れるわけで、おもしろいですねぇ。


さらに本文も、天地と小口の三方が裁断されないまま、いわゆる「袋とじ」の状態で販売されていたので、自分でカットしなければなりませんでした。

自分でカットしますから、不揃いになって独特の味わいが出てきます。

仮フランス装と天アンカットがセットなのは、その名残と思われます。



最近は、ぱたんときれいに開く本もあります。

これはPUR製本といって、建築や車の分野で使われていた糊を製本にも応用したことで可能になった製本だとか。

柔軟性があるだけでなく、丈夫で紙のリサイクルの邪魔にならないので、特にヨーロッパでは普及が進んでいるようです。



以前、東京都新宿区にある加藤製本株式会社に見学にお邪魔したことがあります。

技術力に定評があり、製本会社としては規模が大きい会社です。

村上春樹さんの本は、加藤製本ご指名だという噂も。

いろんな機械を使いこなしつつ、手作業の部分が思いのほか多くて、まさに職人技。

改めて製本という技術に敬意を覚えました。

(余談ですが、夫がかつていた部署はあまりに進行が悪いため、懲罰的に「そろそろ製本所に見学に行ってくれ」と業務部から言われ、編集部ご一行で見学したことがあるとか。豆本をいただいたりして楽しく和気あいあいと見学した最後、きっちり「進行よくしてくださいね!」と釘を刺されたそうで……いやもうほんと、申し訳ないです)



製本は、もちろん完全手作業でも可能です。

製本のワークショップなんかもあるようですね。(そういえば、加藤製本さんの見学の最後に手作業で製本をした覚えが……!)


機会があればぜひ、チャレンジしてみてください。




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